コラム・レポート
豊かな精神文化、宗教心が日本の未来を創造する(41)
(今週の【OL銀座食楽部】は休載します)
【暮らしの中の仏教・言の葉集】今回は最近の風潮である目に見える「量」を重視し、目に見えない「精神性」が軽視されていることについて語ろう。
これは今、もっとも憂(うれ)えるべきことであり、今日的課題だからだ。とにかく、目に見えるもののみを追い求めるという価値観が世の中を支配し、お金や財産といった「量」で測れるもののみに価値を置き、「量」で測れないものを評価しない、そういう時代になってしまっていることにひじょうな危機感をもっている。
そのことによって何が失われているか。深い精神性が失われている。精神性は目に見えない、人格も見えない。そうした目に見えないものを評価しなくなってきている。
人は本来、潜在的には見えない価値に触れたときに感動するものだ。ところが、そういうものを評価しないので、大切なものを見過ごしてしまうことになる。日本は長い平和な歴史を通して世界でもっとも豊かな文化国家になっているのだが、この事実さえも見過ごされがちだ。
これまで世界はずっと「量」を求めてきた。ところが、2008年9月の「リーマンショック」以来、「量」の勝負は愚かなことではないのかということに世界の識者たちが気づき始めている。
目に見えるものは常に壊れ滅びる運命にあり、よりどころにはならない。「リーマンショック」でもお金が壊れ、石油が壊れ、それで財をなした者たちも財産を失った。富や財産といったものは限りがあり、いずれは滅びるということが、今回証明されたのだ。
究極なるものは見えない世界にこそある。見えない世界が生み出すもの、それは精神性の高さだ。今こそ「量」から「質」へ。「質」というのは精神性から生み出される「文化力」のことであり、そこから生まれてくる芸であり、美術であり、創造の世界である。
最近、若い人たちの間に歴史文学や武将の生き方などを学ぶ日本ブームが起こっているという。これは、例えば、「源氏物語」が生まれた背景、そういうものを生み出した時代の人の心に関心をもっているからにほかならない。平安の人々の心、鎌倉人の心、それは目に見えないものだが、その見えないものの価値に気づき始めたということだ。
かつて「量」ではアメリカが世界一だった。それを追い抜いたのが日本だ。このまま「量」を追い求める時代が続けば、その地位をいずれは中国やインドに奪い取られていくだろう。今の中国は45年前の東京オリンピック(1964年)時代の日本にそっくりだが、日本がこの45年でアメリカに並んだところを、中国はわずか15年で並ぶことになるだろう。
アメリカは電化製品や自動車といった「量」の世界ではほとんど他国に譲り渡してしまったが、インターネットなど情報や宇宙衛星の分野に新しい産業を創造した。情報やソフトは見えないものの世界だ。日本は情報産業でも一時はアメリカに追いついたが、今や中国やインドに先を越されている。そうなると、この世界で日本に未来はない。
そんななかで、まだ日本が生きていける世界はアニメであり、ファッションであり、ゲームの世界だ。これらはすべて日本の歴史的背景や文化が元になって生み出され、世界のトップになっているものだ。日本の文化の強みが今、ここに表現され始めている。
これから次々と新しいものが日本から生み出されるだろう。1000年以上もかけて作り上げてきた日本人の豊かな文化性、精神性が、モノであれ、ソフトであれ、質の高い文化を生むに違いない。
日本の伝統的な精神文化は決して過去のものではなく、未来を創造するものである。飛鳥や平安、鎌倉、室町、江戸の文化といったものをもう一度深く掘り起こしてみよう。それが未来を開く。
日本が生きる道は伝統の上にある。その伝統の象徴的なものは、日本人の深い豊かな平和の思想としての、あるいは宗教としての仏教だ。
目に見えない精神性の高さは、豊かな宗教心から生ずる。その豊かな宗教心、仏教を生活習慣の中に取り戻すことが何より大切だ(【暮らしの中の仏教・言の葉集】はお仏壇のはせがわの会長、長谷川裕一さんが日常生活の中に根づいている仏教について話したことをまとめています)。
注:「源氏物語」は一条天皇(いちじょうてんのう、980-1011)の中宮(皇后)、彰子(しょうし、988-1074)に女房(使用人)として仕えた紫式部(むらさき・しきぶ、979?-1016?)が書いたとされる小説で、天皇の皇子として生まれながら臣籍に降下した光源氏(ひかる・げんじ)の恋愛遍歴を描いている。紫式部の「紫式部日記」には1008(寛弘5)年に宮中で読まれていたという記述がある。
注:飛鳥時代は592年から694年、平安時代は794年から1192年頃、鎌倉時代は1185年頃から1333年、室町時代は1336年から1573年、江戸時代は1603年から1867年。
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