コラム・レポート

米国の15年を捨て、自分が楽しめる料理でもてなす和食店(136-1)

米国の15年を捨て、自分が楽しめる料理でもてなす和食店(136-1)白壁に木の扉のシンプルな外観、看板はカウンターの残り木で作られた。

【OL銀座食楽部】東京メトロ日比谷線「築地駅」のほぼ真上に、築地本願寺がある。江戸末期に浅草から移され、かつてこの地は門前町として賑わった。そんな下町情緒が色濃く残る住宅街の一角、勝どき橋の手前に和食をベースに、旬の食材を使って工夫を凝らしたコース料理が食べられる店「はしば」がある。

開店は2008年4月で、33平米(10坪)弱の中に厨房と天然木のカウンター8席に4人の小上がり1室を効率よく収めたこの物件を店主の羽柴靖彦(はしば・やすひこ)さんが選んだのは「ひとりですべて賄える」広さだからだ。

それでもコース料理のため、一斉に提供する貸切宴会となると妻の美枝(よしえ)さんに援軍を頼まざるを得なくなるが。


最初に出てくるイタリアのトマトを練り込んだ丸パン。レーズン、くるみ、にんにく、しょうが、ハーブ類を混ぜたレバーのパテが添えられている。

カウンターを造った時に想像していたお客さんと飲みながら仕事という状況は、「なかなか余裕がない」ので実現しないと羽柴さんは笑う。

羽柴さんは19歳の時にアメリカにわたり、それまでの人生と同じだけの時間をアメリカで過ごしている。日本の寿司屋にいた頃に、知人からニューヨークの日本食レストランに勤務しないかと誘われたのがきっかけだった。

さまざまな人種が混在する街で「人はそれぞれ違う」ことを体感し、環境に合わせる術を身につけた。それはまさに「人生修業」だったと羽柴さんは言う。

帰国を決意したのは、初めてマンハッタンに降り立ってから15年後だ。米国永住権も得ており、長年離れた日本の慣習に馴染(なじ)めなければアメリカに戻ることも想定していたが、ニューヨーク仕込みの環境適応能力で日本に「うまくはまり」、数軒の寿司屋に勤めた後に念願だった自分の店を持った。

まだ肌寒いこの時期は温かさもうれしい、えぐ味とうまみを存分に楽しめる春の先付け。

「型にはまるのが好きではない」という羽柴さんがこの店で出すのは、和をベースとし、基本的には「自分の食べたいもの」とか「自分が楽しめるもの」で組み立てたコース料理だ。

最初に、どちらも自家製の天然酵母パンとレバーパテが出されるのが、この店の大きな特徴のひとつだ。パンには「体に優しい素材」として天然酵母の「白神(しらかみ)こだま酵母(こうぼ)」と国産小麦を選んで使用している。

開店当初は、和食の店でなぜパンが出るのか不思議がられることも少なくなかったという。しかし、「自分のやりたいことをやる」姿勢を貫いたところ、食べたお客さんから好評を得て、今では店での料理の始まりに欠かせない存在になった。

お土産の注文もあり、大量に焼いた時には昼時にパンを売る。それを楽しみ来るお客さんもいるそうだ。

パンを最初に出すのは、「飲食店を訪れた時にお客さんは空腹なもの」だから。まず少し胃を満たしてから料理と酒、語らいを楽しんで欲しいという羽柴流のさりげないもてなしなのだ。

下仁田ネギが「ポワロー」(ネギ)と似ていると感じたことが料理の発想の原点になった「きのことイモのオーブン焼き」だ。

小ぶりながら噛(か)みごたえがあり、満足感のあるパンは、なめらかな口当たりのパテと、味わうと粉のうまみと甘みがより引き立つ。食べ終わると気持ちがゆったりして次の料理を待つ時間を楽しむ余裕も生まれる。

するとタケノコ、ワラビ、白バイ貝をカツオだしで煮ふくめた春を感じさせる皿が置かれた。旬の食材を利用した季節替わりで、食材に合わせて器も変えるという。この時期ならではの体を温める先付に食欲が湧いてくるのを感じる。

続いて、数種のきのこと「アピオス」という小型のイモに下仁田(しもにた)ネギで作ったソースをかけて紙に包み、オーブンで焼いた料理が供された。

ソースは刻んだネギをサンオイルと和(あ)えてオーブンで焼き、火が通ったらミキサーにかけて作る。通常は捨てられるネギの青い部分も使用するため薄緑色に仕上がっている。

色合いは白が基調のアマダイの西京漬けには華やかな平皿を使用している。料理の器は妻の美枝さんの見立て、料理は見た目も重視する女性ならではの感性が光る。

下仁田ネギ独特のとろみと甘みを生かした少し洋風の料理を食べると、日本酒よりむしろワインが欲しくなる。

厨房の真ん中にあるオーブンは「中がしっとり仕上がるから」と羽柴さんが多用する調理器具の1つだ。続くマダイの西京漬けもこの中で焼かれる。

ほんのりと香りを楽しめる程度に加減された味付けのオーブン焼きは、サラマンダーと呼ばれる「天火」で焼くものとは違い、皮目にパリっとした食感はないが、身はほっくりとして元来の甘みが封じ込められている。引き続きワインもいいが、こんどは焼酎も合いそうだ。

敢えて品書きを作らず、2品目以降は当日の食材、お客さんの飲み物、食事の進み具合などを見て料理を変える。作り手の遊び心と旬味が満載の「気ままなコース料理」を食べ手も思い思いに楽しもう(【OL銀座食楽部】では複数の女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は食の「鉄人」になりたいayakoさんが書いています)。

注:「アピオス」とは、北アメリカ原産のアメリカホドイモというツル性のマメ科の植物のこと。古来、アメリカ原住民の栄養源として食されており、日本には明治時代に北アメリカから青森へ輸入されたリンゴの苗木に種がついてきたことで伝わったとされている。

葉は羽状複葉で、夏、葉のつけ根に淡赤緑色の蝶形の花が開き、美しく、甘い香りがするので観賞用にも植えられる。根茎は地下に1mほど伸び、5cmから10cmほどの間隔で節ができる。その節部が肥大してイモになり、数珠(じゅず)やネックレスのような連なった形で実を結ぶが、それを食用にする。

実全体の形が西洋梨によく似てるということで、西洋梨のアピオン(apion)から「アピオス」と名付けられた。栄養価が高く、カルシウムやビタミンE、イソフラボンが多く、鉄分や繊維質に富み、イモでありながらマメ科に属する非常に珍しい植物。

大豆に含まれるBグループサポニンが豊富で、アトピー性皮膚炎や抗HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、抗肥満などに対する薬理効果が報告されている。美容(肌のツヤ、ニキビ)にも効果的とも言われる。

注:下仁田ネギとは、群馬県甘楽郡下仁田町を中心として、その周辺に栽培される根深、夏型ネギの品種のこと。1本ネギで株分れは少なく、白根の長さ20cmあまりで直径は6cmから9cmのものもあり、他の同型品種に比べて白根が特に深く太い。

一般的にはその白根を食べ、青い部分はあまり食べない。また、生では辛味が強すぎて食べられないほどだが、熱を通すと甘くなり、特有の風味がある。原種下仁田ネギは、下仁田及びそのごく近郊の限られた地域でしかおいしく育たないのが特徴とされている。

店名=「はしば」(中央区築地6-14-7、築地原田ビル1階、03-3248-2088)

営業時間=17時30分から22時(注文は21時まで)。日曜日・祝日が定休日。要予約。

席数は12席。

料金はおまかせコースが6000円から、ご飯物が付かない酒肴コースは4000円から。ビール500円から、日本酒800円から、焼酎が650円から、グラスワイン1000円、ボトルワイン3500円から。席料等なし、カード払いは7%の手数料が加算される。

URL=http://www.hashiba-tsukiji.com/

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