コラム・レポート

新年に病院に戻り、看護婦から声をかけられる(101)

新年に病院に戻り、看護婦から声をかけられる(101)鹿児島市加治屋町にある「西郷従道邸庭園跡庭石」。庭石は東京都目黒区の「西郷従道邸庭園跡地」が公園として整備されるのに伴い、2000年12月に目黒区から西郷従道(さいごう・じゅうどう、1843-1902)にゆかりのある鹿児島市に寄贈された。

(著者からの要望で、がん闘病中で具体的な治療法をお知りになりたい方には、最後にお知らせがあります)
【隼人の風】年末年始を自宅で迎えた私はこんどは門松をくぐって(マンションだから正確には門松の張り紙だが)、大学病院の新年仕事始めに組まれた手術を受けるために自宅を出て病院に向かった。

うわのそらで味もわからないほどのお屠蘇(とそ)だったし、おせち料理もまた、言祝ぐ気分とはほど遠かったのだが、ともかくも家族と過ごすことができた正月が終わった。

病棟に帰り着くとナースセンターに飾り付けられた正月飾りが迎えてくれた。ふと掲示板に目をやると、そこには人工臓器での生活を紹介するポスターが貼ってあり、私は思わず顔をそむけた。


ベッドへ腰をおろして腕を組んで瞑目すると、家人と子供達で賑やかなリビングに、真紅のバラで飾られた私の写真とろうそく立てが、小さなテーブルに置かれている様子が浮かんできた。

写真は、大学を終えてすぐに、福岡県久留米市の陸上自衛隊幹部候補生学校へ入隊した時のモノで、淡いブラウンの制服に制帽をかぶり、白い歯を見せて屈託のない笑顔を浮かべている。

たとえ、うちのめされた敗者の戦後からいまだに抜け出せないままの国では、珍しい価値観とはいえ、私は、何かのために死ぬこともやむをえないと意を決した心の不思議な透明さを思い出して感無量だった。

東京都目黒区からの寄贈経緯にふれた説明板で、庭石は伊豆石、伊予の石、紀州の青石の3種がある。

誰かが肩にそっと手をふれたので目を開けると、まるでテレビドラマの「渡る世間は鬼ばかり」に出てくる元気な娘のようなナースが心配そうな顔で立っていた。「お帰りなさい。いいお正月でしたか?明日は剃毛をしますからね」。彼女は、思いやりにあふれた調子で丁寧にそう言うと去っていった。

ああ あの子は主治医の「司祭」の持つ人間性のような、温かさを持ったナースだよなぁ・・・そう私は思った。これまでもいつも、患者を人間として扱ってくれたし、相手の尊厳を傷つけまいとする心使いが自然に伝わってくる人だったからだ。

土壇場に追い詰められた者がせつなく抱きしめている人間の最後の尊厳を、無慈悲にはぎ取っては辱(はずかし)めて平気でいる医療スタッフも多いというのに・・・養成の仕方や、学校教育に始まる世間の風潮の影響もあるのは間違いないが、結局はどんな職業でも最後はそれに従事する人間の問題なのかもしれないなと、腕を解いた私は少し考え込んだ。

明日あたり、新しい主治医団のリーダー、「陣内君」が登場するに違いない。あれと主治医の部下の「ドンキー」のコンビが今後は爪を研ぐわけだ。これに助教授の「やっさん」までが加わったら!これは「前門の虎 後門の狼」という筋書かな?と、私は読めない自分のシナリオに思いをめぐらせた(九州出身で、自衛隊を経て地方で働く重浪明さんが、末期がんから生還した自らの話を不定期にエッセイ風に書きます。

また、重浪明さんからの申し出で、現在、がんの闘病中の方で、具体的な治療法をお知りになりたい方は銀座新聞ニュースまでメール(allginza@gmail.com)でご一報ください。著者から追って連絡させていただきます)。

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