コラム・レポート

昭和の空間で「いわし」を自在に駆使する専門店(63-1)

昭和の空間で「いわし」を自在に駆使する専門店(63-1)木造の建物が「長屋」のように軒を連ねる昭和の面影を残す界隈。数多くの飲食店の明かりが灯るが、横書きの「長屋」の文字が目印だ。

【OL銀座食楽部】新橋駅のSL広場から徒歩で1分、都会の真ん中でありながら、昭和で時間が止まってしまっているような空間がある。烏森(からすもり)神社の参道にもなっている界隈は細くて狭い路地があり、わずか一区画しか離れていない表通りからは想像もできない、雑然とした、レトロな雰囲気の店が軒を並べている。

木造2階建てが連なるその一角に「いわし料理専門店」と冠した「長屋(ながや)」がある。メタボリックシンドロームなどが問題とされる昨今の健康ブームで「DHA(ドコサヘキサエン酸)」や「EPA(エイコサペンタエン酸)」などの不飽和脂肪酸を豊富に含み、「コエンザイム(コーキューテン、CoQ10=補酵素)」も含まれるいわしは、ヘルシーな食材として認識されている。


白い暖簾に「長屋」の文字のみ。この地に掲げて25年が経とうとしている。

そのせいか「長屋」のいわし料理は健康志向のサラリーマンやOL達の間から支持を受け、1階と2階で38席ありながら、予約を断る日もあるほどに毎夜賑わいを見せている。

お客の年齢層は幅広く、「最近は若者や女性のみのグループも増えている」と店主の柴山裕行(しばやま・ひろゆき)さんはいう。「お洒落」とか「洗練された」から、かけ離れた空間にもかかわらず、人が集まる理由は「長屋」が提供する独創的な料理にある。

「長屋」では刺身やすり身のさつま揚げなどといった一般的ないわし料理の他に、しゅうまいや湯葉揚げといった「変化球」、さらにはパン、アイスクリームなどの「珍品」が味わえる。いずれも1000円しないのがうれしい。

可愛らしい印象の「いわしの刺身」、盛り付けも料理の大事な要素と教えてくれる。

多くのメニューの中から、まずは正統派の「刺身」(840円)と「南蛮漬け」(525円)を食べてみることにした。

柴山さんが毎朝築地で仕入れるという素材を使う定番の「いわしの刺身」はこの店では一風変わった盛りつけで出てくる。麦の穂と一輪の花で立体感を出し、アクセントにカニの形の人参を置く。しょうがは笹の葉で「ふまんじゅう」のように包まれており、愛らしく丸められている。

ツマには「解毒作用があり、料亭でよく使われる」(柴山さん)という「莫大海(ばくだいかい)」が合わされ、柴山さんの技が日本料理の流れを汲んでいることが垣間見える。

サツマイモ、きのこのピクルスで驚きも添えられた「南蛮漬け」。

「いわしの南蛮漬け」は、白髪ねぎと「ブロッコリースーパースプラウト(ブロッコリーの芽)」とそばの芽がこんもりと盛り付けられた上に、土佐酢のゼリーが乗り、少々洋風の装いを凝らしている。四方をカリフラワー、細長く赤いピーマン、といった酢漬けにされた野菜が取り囲むのだが、中でも珍しいのがサツマイモで、一度火を通して柔らかくした後、小指ほどの大きさにされた酢漬けのサツマイモだ。

定番料理にはこのように野菜でひとひねりを加えることが多く、例えば「いわしのサラダ」(735円)にはピーマンのような形の黄色のトマトが用いられる。

変わったいわし料理を考案する店主の柴山裕行さん。いわしは自身でも毎日食べており、日々、新しいメニュー開発に取り組んでいる。

また、開店前のカウンターに置かれていた発泡スチロールの中には「スベリヒユ」という枝付きの葉が詰められており、それをボイルして叩き、甘みを出した後に甘酢で絞めた背黒いわしと和えるという。

すべての料理に「面白さ」や「驚き」を隠し味として添えたい、という柴山さんの工夫でどの皿も少しずつ、柴山流のアレンジが施され、目でも楽しめる料理が並んでいる(【OL銀座食楽部】では複数のフードアナリストの女性が実際にレストランを訪れ、そのレポートを毎週、金曜日から週末に掲載します。今回は食の「鉄人」になりたいayakoさんが書いています)。

注:ウイキペディアによると、「DHA(ドコサヘキサエン酸)」は脳 、網膜などのリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分で、魚油にも多く含まれ、DHAの摂取は血中の中性脂肪量を減少させ、心臓病の危険を低減する。DHAが不足すると脳内セロトニンの量が減少し、さまざまな障害を引き起こすという報告がある 。アルツハイマー型痴呆やうつ病などの疾病に対してもDHAの摂取は有効であるといわれている。

注:「EPA(エイコサペンタエン酸)」は魚油食品や母乳に含まれており、血小板を凝集させる物質の生成を抑えて血液をサラサラにしたり、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪を減らして善玉コレステロールを増やすなどの働きがある。動脈硬化、脳梗塞、脳卒中、血栓症高脂血症、高血圧といった病気の予防、改善に役立つことが疫学調査で明らかになっている。EPAとDHAは互いに補い合って生活習慣病などを予防するが、血液の流動性を高める効果はEPAの方が高いとされている。

注:「莫大海」は中国のアオギリ科の植物ハクジュ(伯樹または柏樹)の果実を乾燥したもので、種子の周りの果肉が水分で膨張するのが特徴。乾燥した実を水、微温湯、または番茶で、落とし蓋をして戻して種子を除き、膨張した果肉を刺身のつまや懐石料理の酢の物、寒天寄せなどに使われている。中国ではのどや腸の薬として用いられる。

店名=「いわし料理専門店 長屋」(港区新橋2-15-13、03-3591-5920)

営業時間=17時から23時30分(注文は23時まで)、土・日曜日・祝日が定休。

料金は料理が420円から、コースが2625円から4725円。ビール578円から、ウィスキー・焼酎ロックは473円、グラスワインは630円から。お通し(735円)がつく。
日本フードアナリスト協会

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